自由研究 No.09
比較検証 「バードランドサーカス」と「この空を飛べたら」
第6回 「かささぎ橋」
【はじめに】
1989年11月から雑誌「03」で連載された小説「バードランドサーカス」は、
1991年10月に「この空を飛べたら」として、単行本化されました。
変わったのはタイトルだけではなく、ストーリー、個々の文章表現にも多くの変更が加えられています。
両者を比較する事で、みゆきさんの創作過程や言語感覚が浮き彫りになるのではないでしょうか?
- 雑誌「03」(ゼロサン)1990年9月号・10月号
- 単行本「この空を飛べたら」(初版 1991年10月9日発行)
以下、両者の文章の相違点を表形式にして掲載いたします。
【表の見方】
【数字】
「この空を飛べたら」
単行本版での文章の位置
(例) 3-15
⇒3ページ15行目 |
「バードランドサーカス」での(オリジナルの)文章 |
「この空を飛べたら」で修正された文章 |
131-6 |
いいような感じね。 |
いいような感じ。 |
131-7 |
私の目にはなんとなく映っている。雨に飛沫に霞むビル、撓む街路樹、ゆらゆらと歪むショーウィンドウ……。 |
私の目になんとなく映っている、雨に霞むビル、撓む街路樹、ゆらゆらと歪むショーウィンドウ……。 |
131-8 |
だけど私、自分が雨に打たれて歩いているのかどうかはわからない。 |
だけど雨に打たれて歩いているのかどうかはわからない。 |
131-9 |
たぶんずぶ濡れなんでしょうね、 |
たぶんずぶ濡れでしょうね、 |
131-10 |
でも、なんにも感じない。 |
でも、なんにも感じないわ。 |
131-11 |
私、どこへ向かっているの? |
どこへ向かっているの? |
132-2 |
置き去りにされた一人の酔客が、 |
置き去りにされた酔客が一人、 |
132-3 |
そこにいない誰かに向かって訴えかけるかのように切々と、優しく優しく歌いかけている。 |
そこにいない誰かに向かって切々と、優しく優しく歌いかける。 |
132-6 |
私が、入居二年目にして |
私が入局二年目にして |
132-15 |
早くやめたいってそればっかり |
早くやめたいって、そればっかり |
133-2 |
って思ってアナウンサーをやっていたのであって、 |
と思ってアナウンサーをやっていたんだもの、 |
133-3 |
なんかついていけない世界 |
どこかついていけない世界 |
133-5 |
不思議にもというか、皮肉にもというか、却ってこういう私の下手な喋り方が聴取者には妙にうけてしまって、 |
不思議にもというか皮肉というか、私の下手な喋り方が却って聴取者には妙にうけてしまって、 |
133-6 |
もうしばらくもうしばらくと続けているうちにいつの間にか三年も経ってしまったのね。 |
もうしばらく、もうしばらくと続けているうちにいつの間にか三年も経ってしまったわ。 |
133-14 |
古い中国の美しい伝説に倣って |
中国の古い美しい伝説に倣って |
134-5 |
当てつけがましいなんて言われたりもしたけど、当の私にとっては、夕方のニュース担当が |
当てつけがましいなんて悪口言われたりしながら、当の私にとっては夕方のニュース担当が |
134-6 |
よっぽどがっかりだったのよ。そのニュース担当に |
よっぽどがっかりだった。ニュース担当に |
134-9 |
ほんの愚痴をこぼすにもアナウンス課の人たちにもちかけると自慢話か嫌味に曲げてとられるし、 |
ほんの愚痴をこぼそうにもアナウンス課の人たち相手にだと自慢話か嫌味に曲げてとられるし、 |
134-15 |
人なつこい笑顔が印象的な人。 |
人なつこい笑顔の人。 |
134-16 |
というよりもう木曜日の早朝かしら、 |
というより木曜日の早朝かしら、 |
135-2 |
と声をかけてくれたのは、きまってあの人、 |
と声をかけてくれたのはきまってあの人、 |
135-3 |
ちょっとカルイとかいう評判があったけれど、私に対しては真面目に相談に乗ってくれたように思えたのよ。 |
ちょっとカルイという評判があったけれど、私に対しては真面目に相談に乗ってくれたように思えたの。 |
135-6 |
私が下手なDJで |
私が、DJで |
135-7 |
慰めてくれたりして、楽しくてきりがなくて、 |
慰めてくれたりしたわ。楽しくてきりがなくて、 |
135-10 |
二人で貸し切りにしてもらって、 |
二人の貸し切りにしてもらって、 |
135-13 |
私のことを良く見てもらいたい一心でカッコばかりつけて背伸びしてたあの頃。 |
私のことを良く見てもらいたい一心だったあの頃。 |
135-16 |
野本さんは私のアパートで車を降りた。 |
野本さんは私のアパートの前で車を降りた。 |
136-3 |
それまで二ヶ月間 |
二ヶ月間 |
136-4 |
その代わりにもう私のどんな話をもただ面倒臭そうに |
その代わり私のどんな話をも面倒臭そうに |
136-6 |
けれど私にとっては |
けれど、私にとっては |
136-8 |
帰れば野本さんに |
あとで野本さんに |
136-12 |
ちょうどその頃、番組宛てに変な葉書が舞い込んでムカついてたんだけど。 |
なんだかその頃、番組宛てに変な葉書が舞い込んだりして余計にDJなんて嫌になってたんだけど。 |
136-16 |
変な葉書でしょう?そういえば「かささぎ橋」のたしか月曜日を担当してる人がそんな名前で、 |
変な葉書。そういえば「かささぎ橋」の月曜日を担当してる人が沼田っていう名前で、 |
137-2 |
沢山知っているとかっていうんでDJをやってるはず。 |
沢山知っているとかっていう人よ。 |
137-5 |
わけがわかんない。それが何通も来るんで私、少しムカついてたの。 |
わけがわかんなくて、気味が悪かった。 |
137-8 |
一番気にかかることだったわ。 |
一番気にかかることだったから。 |
137-10 |
放送中に副調整室で皆の噂しているのが偶然イヤホーンに流れ込んで来たこともあった。 |
なのにこんどは放送中に副調整室で皆の噂しているのが偶然イヤホーンに流れ込んで来たっけ。 |
137-16 |
「しかしホントかねぇ」 |
「しかし、ホントかねぇ」 |
138-8 |
おかげで、まる聞こえだったわよ。 |
おかげで私にもすっかり聞こえていたわよ。 |
138-11 |
その夜、野本さんにすぐ相談したわ。 |
うっとうしくて野本さんに相談してみたわ。 |
138-13 |
それでいいんじゃないのか |
それでいいんじゃないか |
138-14 |
こともなげな彼の生返事だった。 |
こともなげな彼だった。 |
138-16 |
あのまま何ごとも起こらなかったなら、今でも野本さんと私とは続いていたのかしら。 |
【該当行なし】 |
139-2 |
わざと考えまいとして……たのかもしれないわ。 |
わざと考えまいとしてたのかもしれないわ。 |
139-11 |
思ってるくせになぜ |
思ってるくせに、なぜ |
139-13 |
もしかしたら私」 |
もしかしたら私……」 |
140-2 |
男の人ってあんな時、女が一人きりで考えて生んでしまうのと、それとも一人きりで考えて中絶してしまうのと……どちらだったら遠ざかろうとしないものなの。 |
【該当行なし】 |
140-12 |
なんとか自然に流産してしまってほしかった。 |
なんとか自然に流産してほしかった。 |
140-13 |
流し続けてひと晩じゅう |
流し続けて、ひと晩じゅう |
140-16 |
下剤や子宮収縮剤を買い漁って来て、 |
下剤を買い漁って来て、 |
141-1 |
子供は流れず、 |
事態は変わらず、 |
141-6 |
ショックです |
ショックです。とてもファンではいられません |
141-13 |
局アナを育成して行くつもりですが、まず当人に自覚というものを持っていただかないことには |
局アナを育成して行くつもりだが、まず当人に自覚というものを持ってもらわないことには |
142-2 |
古い中国の美しい伝説に倣って |
中国の古い美しい伝説に倣って |
142-8 |
会ったら咄嗟に |
会ったら、咄嗟に |
142-14 |
妊娠ではなかった! |
【該当行なし】 |
144-15 |
知ってるくせに、沼田が |
知ってるくせに沼田が |
145-5 |
「夜の大空を流れる天の川、そこに架かる小さな橋の名前を知っていますか……………」
こんど電話するから、ってそういえば何度も言われたけど、どんなに待ったってかかってきたためしなんかなかった。 |
【該当行なし】 |
145-8 |
務まるものなのねぇ。 |
務まるものだわねぇ。 |
145-14 |
なんかじゃなかったもの。 |
なんかじゃなかった。 |
145-15 |
どうだってよかったのよ。もともとなりたくてなったDJじゃないんだから。 |
どうだってよかった。もともとなりたくてなったわけじゃないんだから。 |
147-1 |
人人の |
人々の |
147-8 |
そのビンの中に詰め替えてあったのは、 |
そのビンに詰めてあったのは、 |
147-12 |
いろんな偽名を使って集めなきゃならなくてさ、思いがけず時間がかかっちゃた。 |
いろんな偽名を使って集めなきゃならなくて時間がかかっちゃた。 |
147-15 |
出してもらえなかったのよ。そこでは理由を根ほり葉ほり訊かれるっていうことがなかった点だけ楽だったけど。 |
出してもらえなかった。あそこなら理由を根ほり葉ほり訊かれるっていうことがなかっただけましだったけど。 |
147-16 |
日頃から放送局には、時間が不規則で不眠症だとか言って薬をもらいに行くような人が、他にもよくいるらしいのよね。 |
放送局には、勤務時間が不規則なために不眠症だと言って薬をもらいに行くような人がよくいるらしい。 |
148-3 |
その代わりにと何だかんだ言っては栄養剤だの漢方薬だのを、あれもこれも売りつけようとするばかりでダメ、ね。 |
その代わりにと、何だかんだ言っては栄養剤をあれもこれも売りつけようとするばかりだったわ。 |
148-5 |
いっぱいになったわ。 |
いっぱいになった。 |
148-14 |
でもどこか違うような……よくわかんないけど。 |
でもどこか違うような…… |
149-3 |
どうやら少し効いてきたらしいところをみると、確かに睡眠薬だったみたいだわね。 |
どうやら少し効いてきたところをみると、間違いなく睡眠薬だったみたいだわね。 |
149-5 |
感じに似てるけど。少し吐き気もしてる。 |
感じだけど。なんだか暑くてムカムカする。 |
149-11 |
それだったら私は、 |
それだったら、 |
151-9 |
少しだけ開きっ放しになっていて、 |
少しだけ開きっ放し。 |
151-13 |
階を示す数字を書きつけた、埃じみたプラスチックカバーをかけられた蛍光灯が、踊り場の壁にぼんやりと点っている、薄暗いその階段を私はのろのろと昇り始めている。 |
階を示す数字のついた、埃じみたプラスチックカバーをかけられた蛍光灯。踊り場の壁にぼんやりと点っている。薄暗いその階段を、私はのろのろと昇り始めている。 |
151-15 |
フロアとの境の戸は固く閉ざされていて、把手が回りもしない。 |
フロアとの境のドアは把手が回らない。 |
152-2 |
それって私の靴音だけが私の身体よりもとっくに先へ昇って行ってしまった気がする。そして私に、 |
私の靴音だけが私の身体よりもとっくに先へ昇って行ってしまった気がする。そこから私に、 |
152-10 |
でも降りてまた歩くのも、もういいって感じ。 |
でも降りてまた歩くのは、もうたくさん。 |
153-4 |
おさまりませんよ |
おさまらないよ |
153-9 |
DJの仕事って、アナウンサーの仕事って、結局何なの? |
DJの仕事って何をする仕事なんですか?課長? |
154-9 |
全ての郵便物を |
郵便物を |
154-12 |
不思議はないわ。 |
不思議はないわね。 |
155-6 |
私は押しのけるようにして |
私は押しのけながら |
155-8 |
信子の目尻がきりきりと吊り上って、それまでのベタベタと親しそうな口調が一変した。 |
彼女の目尻がきりきりと吊り上って、それまでのベタベタと妙に親しそうだった口調が一変したわ。 |
155-10 |
待ちなさいよ、 |
待ちなさいよ。 |
156-7 |
お願いだから明日ハッキリ否定して。 |
明日ハッキリ否定して。このままじゃ沼田さんの立場が悪くなっちゃうのよ。 |
156-10 |
全てのDJに |
放送局じゅうに |
156-12 |
白い毛皮のコートが雨でびしょ濡れで重い。 |
コートが雨で重い。DJなんだから少し派手でもいいかなって、浮かれて買った白いフェイクファーのコートが、ずぶ濡れで重い。 |
158-9 |
ほら。 |
ほら。あと一歩。 |
158-13 |
足元から、女の声。 |
足元で女の声がする。 |
158-14 |
透きとおった、強い不思議な声。 |
透きとおった、不思議な声。 |
160-2 |
そのはずみで留め金がはずれたのだろう、 |
そのはずみで留め金がはずれ、 |
160-3 |
青く照らされながら浮かびあがり、それからゆっくりと散り散りに落ちてゆく。 |
青く照らされながら散らばって浮かびあがると、それからゆっくりゆっくりと落ちてゆく。 |
160-9 |
いっせいに聞こえ始める。 |
いっせいにとびこんで来る。 |
160-10 |
降りしきる雨の粒がひとつひとつネオンに照らされて、青く青く光りながら、何千もの数えきれない光の河を成して、ビルの群れのあいだの闇の空間を流れるのが見える。 |
降りしきる雨のひと粒ひと粒がネオンに照らされて青く青く光りながら、何千もの数えきれない光の河を成し、ビルの群れのあいだの闇の空間を渡っていく。 |
160-12 |
…………天の川だ。 |
…………あぁ天の川だ。 |
161-3 |
恋の相手の人生さえもね。 |
恋の相手の人生さえも。 |
161-6 |
女なら誰でもよかっただけで、私なんかを求めてくれはしないのよ、 |
女なら誰でもよかっただけで私なんかを求めてくれはしない、 |
161-11 |
ほしいのよね。 |
ほしいのよ。 |
161-16 |
励ましでさえ聞きたくて、葉書を書いてみずにいられない人の気持ちは、そのまま、この私自身の気持ちとなんら変わりがないから。 |
励ましでさえ聞きたかった人の気持ちはそのまま、この私自身の気持ちとなんら変わりがないのかもしれない。 |
162-2 |
それが私でなくちゃダメなんだとまで望んでもらうことを期待するのは、虫がいいけれど。 |
【該当行なし】 |
162-3 |
それでも私は |
私は、 |
162-6 |
私は、これっぽっちだけれど私。 |
それでも私は、これっぽっちだけれど私だと、 |
162-13 |
でももう一度だけ,この私を、このままの私を,あそこへ戻らせなくてはなりません。
もう番組は、代わりの人が用意されているのでしょうね。あの玄関を入っていく勇気が、あるのでしょうか。この私に。 |
でももう一度だけこの私を、このままの私をあそこへ戻らせて。
もう番組は、代わりの人が用意されているに違いないけれど。
お願い、あの場所へ私を連れて行って。
このままの私を連れて行って。 |
算出方法の定義が難しいので、相違点を厳密に算出する事ができないのですが、
少なく見積もっても前篇では60箇所以上、後編で40箇所以上の相違点があります。
【前編と後編の差】
一見して分かるように、前編に比して、後編の修正箇所は有意に少ないです。
おそらく前編の原稿を編集部に提出した時点で、
後編の文章の原型もほぼ決まっており、後編に関してはより長期間、
推敲する余裕があったものと思われます。
【前編の削除部分】
「かささぎ橋」前編において目を惹くのは、
単行本化に当たっていくつかの文章が削除されているところです。
以下、列挙すると
138-16 あのまま何ごとも起こらなかったなら、今でも野本さんと私とは続いていたのかしら。
140-2 男の人ってあんな時、女が一人きりで考えて生んでしまうのと、
それとも一人きりで考えて中絶してしまうのと……どちらだったら遠ざかろうとしないものなの。
142-14 妊娠ではなかった!
145-5 「夜の大空を流れる天の川、そこに架かる小さな橋の名前を知っていますか……………」
こんど電話するから、ってそういえば何度も言われたけど、
どんなに待ったってかかってきたためしなんかなかった。
これらの削除部分は、すべて主人公鷺沼素子が恋人の野本との関係について悩んでいる箇所です。
その削除理由は、おそらくこの「かささぎ橋」(あるいは「この空を飛べたら」全体)のテーマと絡んでくると
私は考えています。
主人公鷺沼の自殺をしようとした直接のきっかけは恋人野本との破局ではありますが、
本質的には、他者との関わり合いを失ったことへの
(あるいは失っていることに気づいてしまったことへの)
孤独感にあると思います。
「バードランドサーカス」では、妊娠にまつわる顛末について語りすぎたがために、
物語の軸が鷺沼と野本との関係に収束してしまっているきらいがあるように思います。
「この空を飛べたら」では、野本への想いについて、削除することによって、
話を単なる悲恋話にさせない努力が払われていると思うのです。
【子宮収縮剤】
「バードランドサーカス」では鷺沼は流産をしようと「下剤や子宮収縮剤を買い漁っ」たわけですが、
「この空を飛べたら」では「下剤」のみを買い漁ったことになっています。
私自身、医学には疎いのですが、子宮収縮剤は市販されるような類の薬ではないと思います。
みゆきさんもその点に後になって気づいたのではないでしょうか?
【後編の末尾】
「かささぎ橋」後編における「バードランドサーカス」と「この空を飛べたら」の
大きな相違点は、結末部分です。
《バードランドサーカス》 でももう一度だけ,この私を、このままの私を,あそこへ戻らせなくてはなりません。
もう番組は、代わりの人が用意されているのでしょうね。
あの玄関を入っていく勇気が、あるのでしょうか。この私に。
《この空を飛べたら》 でももう一度だけこの私を、このままの私をあそこへ戻らせて。
もう番組は、代わりの人が用意されているに違いないけれど。
お願い、あの場所へ私を連れて行って。
このままの私を連れて行って。
「バードランドサーカス」では、
「勇気が、あるのでしょうか。この私に。」と
主人公は自問自答をし、その心にまだ迷いや怖れを含んでいます。
これに対し
「この空を飛べたら」では
「 お願い、あの場所へ私を連れて行って。このままの私を連れて行って。」と、
そうした迷いや怖れを乗り越えた「願い」を
強調した表現となっています。
これは
「バードランドサーカス」最終篇の「鵙は何処へ行った」が
単行本では「この空を飛べたら」に全面差し替えになったこととも関連しているのではないかと思っています。、
連載当初、人の孤独を直視することに重きを置いていた「バードランドサーカス」は
単行本になるあたって、その孤独を乗り越える可能性や希望へと
重点を移していったと、私は考えています。
【かささぎ橋 と 問う女】
誰しも思うことですが、夜会Vol.8「問う女」とこの「かささぎ橋」の設定は酷似しています。
・ラジオDJという主人公の職業
・言葉を操りながら、孤独に陥る主人公の苦悩
・ストーリーが展開するきっかけとなる恋人との破局
・ともに一度は職場を離れること
・また「かささぎ橋」では最後にもう一度ラジオDJを試みようとし、
夜会版「問う女」では最後の放送でもって物語が終わること
これにもう一つ付け加えるべきなのが
「寒雀」のホームレスの女性と「問う女」のニマンロクセンエンの存在です。
「この空を飛べたら」版では、若干 不明確になっていますが、
「寒雀」のホームレスの女性が最終話で倒れていた原因の一つは
「かささぎ橋」において自殺を止められた主人公が投げつけたバッグから落ちた
睡眠薬入りの瓶を拾い、その中の錠剤を飲んだせいなのです。
「バードランドサーカス」の最終話「鵙は何処に行った」では
この為にホームレスの女性は死亡しています。
これもまた「問う女」におけるニマンロクセンエンの死と対応しているように思います。
ともに孤独とそこからの再生をテーマにしている「かささぎ橋」と「問う女」
「かささぎ橋」では主人公の再生のかげにホームレスの女性の死があり、
「問う女」では主人公の再生のきっかけとして売春婦であったニマンロクセンエンの死があるのです。
社会から疎外されている、本当の名前を呼ばれることもない存在
(ホームレスの女性は連作小説中 唯一名前を明示されないない主人公です)
そうした存在の「犠牲」の上で主人公は再生していく。
この点で両作品は酷似していると思いますし、
あるいはみゆきさんの初期の歌「泥海の中から」の
「おまえが殺した 名もない鳥の亡骸は おまえを明日へ 連れて飛び続けるだろう」
とも酷似しています。
どのようにして人はその孤独を乗り越えるか
というのは、みゆきさんの一つのテーマのように私には思えます。
この「バードランドサーカス」と「この空を飛べたら」の比較は
連載していく予定です。
そこで、今回私が掲載した相違点に基づいて別の観点からの考察がありましたら、
ぜひ、お聞かせください。
よろしければ、このページに
「私はこう考える」という形で、掲載してみたいと思っています。
(要 ペンネーム)
また、他にみゆきさんに関するデータや研究を発表してみたいが、
発表する場所が無いという方、
形式の整ったものでしたら(出典情報など)
私のホームページのスペースをお貸しします。
どうぞご相談くださいませ。

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