自由研究 No.07
比較検証 「バードランドサーカス」と「この空を飛べたら」
第4回 「チャボを飼ってみな」
【はじめに】
1989年11月から雑誌「03」で連載された小説「バードランドサーカス」は、
1991年10月に「この空を飛べたら」として、単行本化されました。
変わったのはタイトルだけではなく、ストーリー、個々の文章表現にも多くの変更が加えられています。
両者を比較する事で、みゆきさんの創作過程や言語感覚が浮き彫りになるのではないでしょうか?
- 単行本「この空を飛べたら」(初版 1991年10月9日発行)
以下、両者の文章の相違点を表形式にして掲載いたします。
【表の見方】
【数字】
「この空を飛べたら」
単行本版での文章の位置
(例) 3-15
⇒3ページ15行目 |
「バードランドサーカス」での(オリジナルの)文章 |
| 「この空を飛べたら」で修正された文章 |
| 98-8 |
履いてみせて。はいこれ。 |
| 履いてみせて。 |
| 99-15 |
聞いたことがあります。 |
| 聞いたことがありました。 |
| 103-2 |
動物とか |
| 動物を |
| 103-8 |
言って |
| 答えて |
| 103-12 |
気が楽だったし。たいてい一人で行っていました。 |
| 気が楽だったし。 |
| 105-2 |
べつに大学生じゃなくても |
| べつに彼が大学生じゃなくても |
| 106-9 |
思っていたんです。 |
| 思ったんです。 |
| 106-12 |
それから何日も経たないうちに、そこが空っぽになっているのを見ることになりました。 |
| ある日そこが空っぽになっているのを見つけることになりました。 |
| 107-1 |
チャボの尾羽根 |
| むしられたチャボの尾羽根 |
| 107-5 |
どっち向いてんの、こら」 |
| どっち向いてんの」 |
| 107-7 |
(―僕は、あれからずっと、チャボを飼ってみたかったのかもしれません。) |
(―僕は、あれからずっと、チャボを飼ってみたかったのかもしれません。
こいつにはなんにも言ってないけど、こんなにこいつがあのチャボ に似ていなかったとしたらつき合っていたかどうか、僕には答えられる自信がないんです。
愛している……んだと思うけど、それがどうしてもこいつのことなのかというと、よくわかりません。僕はできるだけのことはやっているつもりです。) |
両者の相違点は(私の計算で)14箇所と、「鴉」に次ぐ少なさとなっています。
掲載されたのは、雑誌「03」の90年5月号、
その前の「ポケットの白鳥(後編)」が90年3月号
また「ポケットの白鳥」自体が、前回のレポートで推測したように
既に前編(90年2月号掲載)の段階で、
かなり構想がまとまっていたと考えられるので、
それを考えても
「チャボを飼ってみな」の文章を練る時間はかなりあったと思われます。
相違点の少なさはそれを証明しているのではないでしょうか?
【倉橋圭の独白】
両者の大きな違いは、最後の「倉橋圭の独白」です。
「この空を飛べたら」では、
「バードランドサーカス」と共通の
―僕は、あれからずっと、チャボを飼ってみたかったのかもしれません。
に続けて、さらに4行にわたって、独白が続きます。
おそらくこれは、
両者における「倉橋圭」の違いにあるように思います。
「この空を飛べたら」では最終話「この空を飛べたら」で
「鴉」の主人公青木京子とともに再登場する倉橋圭ですが、
実は「バードランドサーカス」では、
「チャボを飼ってみな」にしか登場しないのです。
「この空を飛べたら」版「チャボを飼ってみな」で付加された独白は、
倉橋圭が再登場するための伏線としてあるのだと考えます。
そして倉橋圭の特徴は
唯一の男性主人公というだけでなく、
他の各編(寒雀は除く)では、
それまで孤独や憎悪を感じていた主人公達に心の転機が訪れたことをもって、
話を結んでいるわけですが、
この倉橋圭だけは、「チャボを飼ってみな」の段階では、
まだそうした転機は訪れていないのです。
彼が自分の弱さとそれに対する逃避に気づくのは
青木京子との出会いを待たなくてがなりません。
「この空を飛べたら」版「チャボを飼ってみな」では、
彼がまだ自己の問題から目を背けていることを
強調しているのではないでしょうか?
【余談「圭」】
みゆきさんの書いた小説はそれほど多いわけでは無いのですが、
この「圭」という男性名は、
時代は下って「2/2」に再登場してきます。
莉花の恋人「矢沢圭」です。
「チャボを飼ってみな」の「圭」は「へタレ」という表現がぴったりですが、
「2/2」の「圭」は誠実さ・行動力どの面からも理想的男性像となっていて
好対照となっています。
また両者とも、女性による独白形式が大半を占めるみゆきさんの小説の中にあって、
自己の心情を述べる機会を与えられた数少ない男性登場人物です。
ちょっと面白い共通点かもしれません。
この「バードランドサーカス」と「この空を飛べたら」の比較は
連載していく予定です。
そこで、今回私が掲載した相違点に基づいて別の観点からの考察がありましたら、
ぜひ、お聞かせください。
よろしければ、このページに
「私はこう考える」という形で、掲載してみたいと思っています。
(要 ペンネーム)
また、他にみゆきさんに関するデータや研究を発表してみたいが、
発表する場所が無いという方、
形式の整ったものでしたら(出典情報など)
私のホームページのスペースをお貸しします。
どうぞご相談くださいませ。

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