自由研究 No.06
比較検証 「バードランドサーカス」と「この空を飛べたら」
第3回 「ポケットの白鳥」
【はじめに】
1989年11月から雑誌「03」で連載された小説「バードランドサーカス」は、
1991年10月に「この空を飛べたら」として、単行本化されました。
変わったのはタイトルだけではなく、ストーリー、個々の文章表現にも多くの変更が加えられています。
両者を比較する事で、みゆきさんの創作過程や言語感覚が浮き彫りになるのではないでしょうか?
- 単行本「この空を飛べたら」(初版 1991年10月9日発行)
以下、両者の文章の相違点を表形式にして掲載いたします。
【表の見方】
【数字】
「この空を飛べたら」
単行本版での文章の位置
(例) 3-15
⇒3ページ15行目 |
「バードランドサーカス」での(オリジナルの)文章 |
「この空を飛べたら」で修正された文章 |
52-14 |
私の膝にいま映っている青い色は、 |
私の膝に映る青い色は、 |
53-6 |
乗っかるんだと思ってたわ。 |
乗っかるんだと思ってた。 |
53-7 |
思いもよらなかった。 |
思いもよらなかったわ。 |
53-13 |
そのまま使われている。 |
そのまま使われているの。 |
53-16 |
あったなんていうことに気がつきもしなかったから、 |
あったなんてこと気がつきもしなかったから、 |
54-2 |
下の通りを見ていた。 |
下の通りを見た。 |
54-3 |
スナックやパブの入っている雑居ビルだから朝まで通用口のドアは開いていたし、 |
スナックやパブの入ってる雑居ビルだから朝まで通用口のドアは開いてるし、 |
54-4 |
いつでも来られた。 |
いつでも来れる。 |
54-5 |
すれ違うだけだった。 |
すれ違うだけ。 |
54-6 |
あるとき、この物置小屋が |
この物置小屋が |
54-7 |
このトタン板の屋根が乱暴に張り出して庇の役目を果たしている |
このトタン板が張り出して庇の役目を果たしている |
54-8 |
誰かが屋上に上がって来ても、こんなすき間があることすら誰も気にもとめない。 |
急に誰かが屋上に上がって来ても、こんなすき間があることすら気づかれない。 |
54-15 |
何と言ってるのかが私には聞き分けられない。 |
何と言ってるのか聞き分けられない。 |
55-1 |
今日も鳴いてるわ、ポケットの中で。 |
今も鳴いてるわ。 |
55-2 |
私は途方に暮れて、何も教えてはくれない人々が街を行き交うのをぼんやりと見おろすばかり。 |
私は途方に暮れて、何も教えてくれない人々の行き交う通りを見おろす。 |
55-3 |
【行を空けず次の文へ】 |
【一行空白】 |
55-4 |
雨は息もつかせぬ勢いで降り続いている。
一本の女傘をあいだにして身を寄せあう、そう若くはないカップルの上に。
革鞄を頭上にかざして大股に通りを走ってゆく、背広姿の男の上に。
客待ちしているタクシーの上に。
客待ちしている女の上に。
ビルのすき間から、大きなビニールのゴミ袋をさげて駆け出ては駆け戻る店員たちの上に。
ゴミ袋を足元にもたせかけられた街灯の上に。
炉辺焼き屋の軒先に並べられた赤い提灯の上に。
中華料理屋の換気扇から流れ出て来る湯気の上に。
古びた喫茶店のガラス窓に貼られた、色あせた二十センチばかりの紙きれの上に。
そこに今夜もある貼り紙めがけて
―――ウェイトレス募集。委細面談。
あれが私の勤めてる店。喫茶“モナミ”。 |
降り落ちてゆく雨、容赦なく
女傘一本に寄りあう、若くはないカップルのそれぞれもう片方の肩めがけて
降り落ちてゆく雨、容赦なく
アタッシュケースを頭上にかざし、車道を走り渡る男のくたびれた背広めがけて
降り落ちてゆく雨、容赦なく
シートを倒して運転手が眠りこけているタクシーの空車ランプめがけて
降り落ちてゆく雨、容赦なく
何度辻を変えても客のつかない超ミニスカートの膝をめがけて
降り落ちてゆく雨、容赦なく
ファッションビルのシャッターの隙間からパッキンの溢れた段ボール箱や大きな
ゴミ袋を運び出している女店員たちの赤い髪めがけて
降り落ちてゆく雨、容赦なく
ゴミの山をもたせかけ置かれた細い街路樹の、裸の枝めがけて
降り落ちてゆく雨、容赦なく
ひと気のない炉辺焼屋の軒に並んで揺れる小提灯めがけて
降り落ちてゆく雨、容赦なく
ホステス相手の中華料理屋の換気扇から勢いよく流れ出ている湯気めがけて
降り落ちてゆく雨、容赦なく
喫茶店のガラス窓の桟めがけて
そこに今夜もある貼り紙めがけて
―――ウェイトレス募集、五時から十二時までの方、委細面談、喫茶“モナミ” |
56-10 |
求人広告の貼り紙は年じゅうあそこに、端がめくれるまで貼ってあるけど、勤めたいなんていう女の子はさっぱりやって来やしない。 |
求人広告は年じゅうあそこに四隅がめくられても貼ってあるけど、勤めたいなんていう女の子はさっぱり来やしない。 |
56-11 |
たまに貼り紙の前で立ち止まって店の中をのぞきこむ子がいても、ウィンドウに目を移して、ロウ細工のサンドイッチが埃にまみれてるのを見るとさっさと立ち去ってしまう。 |
たまに貼り紙の前で立ち止まって店の中をのぞきこむ子もいないじゃないけど、ウィンドウに目を移してロウ細工のサンドイッチが埃をかぶっているのを見るとさっさと立ち去ってしまう。 |
56-14 |
全部合わせても十人に満たない常連客が交替で居すわっているばかりの店内は、三十年前と変わらないんだって。 |
全部合わせても十人に満たない常連客が毎日交替で居すわってる店内は、三十年前と変わらない造りなんだって。 |
56-15 |
ビニール張りの、スプリングの片寄ったソファ。小花模様の壁紙。ダーツ。 |
ビニール張りの、スプリングなんかイカれちゃったソファ。小花模様の煤けた壁紙。穴だらけのダーツ。 |
57-1 |
何もかも見知らぬほどに古くはない。 |
珍しいというほどに古くもない。 |
57-2 |
いっそ何百年も昔の物なら骨董品という値打ちもつくかもしれないけど、あそこにあるのはただのガラクタばかりよ。 |
いっそ何百年も昔の物だったら骨董品という値打ちもつくかもしれないのに、あそこにあるのはただのガラクタばかりなのよ。 |
57-4 |
メニューを見れば鼻白む。 |
メニュー見てシラケてんの、わかるわ。 |
57-6 |
コーヒー、紅茶、オレンジジュース、アイスクリーム、ハムサンド。それだけ。 |
コーヒーでしょ、紅茶でしょ、オレンジジュース、アイスクリーム、ハムサンド。それだけ。ザッツ・オール。 |
57-8 |
もっともだと思うわ。 |
もっともよね。 |
57-9 |
続けたいなんていうオーナーの意固地さがどこまでもつか、 |
続けたいなんてオーナーの甘っちょろい意固地がどこまでもつか、 |
57-11 |
兼ねなきゃならないのだろうけれど。 |
兼ねなきゃならないけど。 |
57-13 |
それでも、 |
でも、 |
57-14 |
「あんたなら |
「あんたみたいな若い人なら |
57-16 |
見えるんでしょう。マスターも誰も、私が“モナミ”に勤めた理由なんて知らないから。 |
見えるんでしょ。誰も私が“モナミ”に勤めた理由なんて知らない。 |
58-2 |
上っているなんてことも、きっと夢にも思ってないでしょ。 |
上っているなんてことも夢にも思ってないでしょ。 |
58-4 |
見てないものなのよね。 |
見てないものだものね。 |
58-7 |
わめいてひと騒ぎ。 |
酔ってわめいてる。 |
58-15 |
行けなかった、なんて |
行けなかったなんて |
59-1 |
あんまり望んでなかったから、就職しようかなって言ったのに。 |
あまり望んでなかったから就職しようかなって言ったのに。 |
59-3 |
気がねさせないように、って心配してたほどには私、きがねなんかしてなかったよ。 |
気がねさせないようにって心配してたほどには私、気にしてなかったよ。 |
59-6 |
心のどこかで、養ってやってるんだ、犠牲になってやってるんだ、って驕りがあるんじゃないの? |
心のどこかに、自分が養ってやってるんだ、犠牲になってやってるんだ、って驕りが………。 |
59-9 |
そのうち自分ではたらけるようになったら、そのときは私がお姉ちゃんを養う番だねって、その程度に考えてて……。 |
そのうち自分ではたらけるようになったらそのときは私がお姉ちゃんを養う番だねって、その程度に考えてたってことで。 |
59-12 |
結局、私は |
結局私は |
60-1 |
あの頃、地価がどんどん上がったでしょ。 |
あの頃って地価がどんどん上がる一方だったでしょ。 |
60-2 |
買い漁ったところが、上がりすぎて誰も買わなくなっちゃったもんだから、 |
買い漁った揚句、上がりすぎて誰も買わなくなっちゃったのね、 |
60-5 |
違う世界にいるみたいだった。 |
違う世界みたいだった。 |
60-7 |
イヤねって |
イヤだって |
60-8 |
そうすると、玄関を出て、左のほうへ行ったところに |
とすると、玄関を出て、左へ行ったところに |
61-3 |
少し、風が出て来たみたい。 |
なんか少し、風が強くなったみたい。 |
61-6 |
黒のローヒールの爪先に、霧のような水滴がときおり吹きつけられては、青い色を浮かべる。 |
黒のスリッポンの爪先に、水滴がときおり吹きつけられて青い色を浮かべる。 |
61-7 |
とても夜とは思えないほどテキパキした様子で仕事をしていて、デスクからデスクへと急ぎ足で行き来したり、電話をとったりかけたり議論したり、何かを書いたり、 |
夜とは思えないほどテキパキした様子で仕事をしていて、デスクからデスクへと急ぎ足で行き来しては電話をとったりかけたり議論したり、何かを書いたり |
61-10 |
ビルのオフィスの窓も、同じように |
ビルの窓も同じように |
61-11 |
ああいうオフィスの灯りは、年々その消える時刻が遅くなってる気がする。ひと晩中点ってるところもある。消し忘れかと思うと、せっせと仕事してる人がまだ中にいるのよね。 |
ああいうオフィスの灯りって、消える時刻がだんだん遅くなってく気がする。ひと晩中点ってるところもあって。消し忘れかと思うと、仕事してる人がまだ意外と中にいるのよね。 |
61-14 |
あの窓の蛍光灯の明るさには、さすがの大広告塔のネオンの色も及ばない。 |
あの窓までは、さすがの大広告塔のネオンの色も及ばないみたい。 |
62-6 |
編み目のところどころとんだ、ひっつれたようなカーディガンを |
編み目のいっぱいとんだ、ひっつれたカーディガンを |
63-4 |
さっきより強くなりだした風に |
さっきより強くなった風に |
63-11 |
日記がひとりでここまで来たっていうの? |
日記がひとりでここまで来たわけ? |
63-14 |
「よく言うわよ、ひとの日記を盗み読みするなんて品性下劣なことしといて、 |
「よく言うわね、ひとの日記を盗み読みするなんて卑劣なことしといて、 |
63-16 |
「だから。お掃除した時に少し位置が変ったのかもしれないわよ。それくらいのこともしちゃいけないの?」 |
「だから……お掃除した時に少し位置が変ったのかもしれないわよ」 |
64-15 |
「持ち物検査つきのね」 |
「検閲つきのね」 |
65-4 |
「どっちか死ぬよりほかないのね」 |
「どっちか死にでもしない限り?」 |
65-5 |
「一人暮しなんて淋しいね」 |
「ねぇヨーコ、一人暮しなんて淋しいと思わない?」 |
65-13 |
飲みに行ったり、そのコの部屋に泊まったりしてたこと、隠してビクビクしてたから悟れまいとする余り、居丈高になってみせただけね。 |
一緒に飲みに行ったり、そのコの部屋に泊まったりしてたこと、隠してビクビクしてたから、悟れまいとする余り、居丈高になってみせただけなのよね。 |
66-2 |
八時三十分のバス |
九時三十分のバス |
66-12 |
九時三十分 |
十時三十分 |
67-3 |
灯りの消えたショウウィンドウの前でたたずんでいた。 |
灯りの消えたショーウィンドウの前で立ち止まった。 |
67-4 |
そして九時二十分、 |
九時二十分、 |
70-4 |
こんなことで見分けがつくなんてさ。 |
こんなことで見分けがつくなんて。 |
70-7 |
旅立たせてあげたかったわ。 |
旅立たせてあげたかった。 |
70-10 |
思えばあの時から白鳥が、私のポケットの中に住みついたのかもしれない。ただ警察官がまたわけのわからないことを言うものだから、とり紛れてしまったのだけれど。 |
あの時から白鳥が私のポケットの中に住みついたのかもしれない。そのとき警察官がまたわけのわからないことを言うものだから、とり紛れてしまったけれど。 |
70-16 |
そういった様子 |
思い悩んでいた様子 |
74-3 |
横たわった舗道に、 |
横たわった舗道には、 |
74-8 |
千円足りないことを、社内じゅうの人から横領だの泥棒だのと中傷されて、 |
千円足りないことを社内じゅうの人から横領だ泥棒だと中傷されて、 |
75-2 |
のことだった。
【一行空白】 |
のことだった。 |
75-7 |
思い出して、 |
思い出し、 |
75-16 |
知らなかったです。 |
知らなかったですね。 |
76-3 |
立ってたんですよ。」 |
立ってたんですよ。空車を待ってる様子でした」 |
77-3 |
ふと今さっき通りすぎた |
ふと今通りすぎた |
78-10 |
涙がボロボロこぼれた。 |
とぼとぼと歩いて戻った。 |
81-11 |
いっそ全てを遺書に託してどこか他の出版社に送りつけ、そうして同じビル |
いっそ全てを遺書に託して、同じビル |
82-2 |
誰だっていうのよ。 |
誰だっていうのよね。 |
82-3 |
お姉ちゃんが、あの女の落ちて来た場所にたたずんでいたのは何故だか、誰も知らないけど。 |
お姉ちゃんが、あの女の落ちて来た場所にたたずんでいたのは何故? |
82-16 |
響き続けるのよ。 |
響き続けるの。 |
83-1 |
何て言ってたの? |
何て言ったの? |
83-3 |
そう言ってたの? |
そう言ったの? |
83-15 |
降りしきる雨のすきをついて広告塔の青さが散らばるのか、青い光のすきをついて鋭い雨がすり抜けるのか、もうどちらともわからない。 |
広告塔の青さが散らばる。青い光のすきをついて鋭い雨がすり抜ける。 |
83-16 |
しっとりと重く濡れた袖に、ぬらぬらと青がまとわりついている。思いを遮るように赤へ変わる。 |
じっとりと重く濡れた私の袖に、ぬらぬらと青がまとわりついてくる。次の瞬間、たちまち全てが赤になる。 |
84-2 |
青い屋上。赤い屋上。 |
青い屋上。
赤い屋上。 |
84-6 |
【該当行なし】 |
青い屋上。
赤い屋上。 |
84-12 |
やだ、何してるのあの人。 |
いやだ、何してるのあの人。 |
84-14 |
【該当行なし】 |
青い屋上。
赤い屋上。 |
85-6 |
【該当行なし】 |
青い屋上。
赤い屋上。 |
86-11 |
「ヨーコ?
(改行) |
「ヨーコ?(改行なし) |
86-11 |
夕飯待っててね」 |
待っててね」 |
86-15 |
立ち停まってしまったんでしょう?(改行なし) |
立ち停まってしまったんでしょう?
(改行) |
86-16 |
このビルの前を |
だって、このビルの前を |
87-1 |
だったものね。 |
だったもの。 |
87-2 |
すんだんでしょう。 |
すんだんでしょう? |
87-4 |
つまんないこと気にしてんじゃないわよバカな子ねぇ、そう笑ってるお姉ちゃんの、白鳥の歌がいま聞こえる。 |
……つまんないこと気にしてんじゃないわよバカな子ねぇ……そう笑ってるお姉ちゃんの白鳥の歌が聞こえる。 |
算出方法の定義が難しいので、相違点を厳密に算出する事ができないのですが、
少なく見積もっても前篇では60箇所以上、後編で30箇所以上の相違点があります。
【前編と後編の差】
一見して分かるように、前編に比して、後編の修正箇所は有意に少ないです。
おそらく前編の原稿を編集部に提出した時点で、
後編の文章の原型もほぼ決まっており、後編に関してはより長期間、
推敲する余裕があったものと思われます。
【前編 人の往来について】
「ポケットの白鳥」前編の最大の変更点は、
55-4以下の、主人公ヨーコが、雨の降る中、ビルの屋上から通りの人の往来を眺めている場面です。
「この空を飛べたら」では、「降り落ちてゆく雨、容赦なく」をリフレインさせて、
よりリズミカルに、詩的な表現に徹しています。
また「バードランドサーカス」では前の文と連続していたのですが、
「この空を飛べたら」では55-3を一行空白にさせて、この場面の独立性をより高めています。
注目したいのは、こうした人の往来の詩的な描写は、この連作小説の他の編と関連していることです。
「鴉」では、14-12以下、「○○が通る」を各連の冒頭にして、
主人公の京子が、雨に濡れながら眺める、人の往来を詩的に描写しています。
同じく「COO,COO」では、31-11以下で
主人公の上原サンがワゴンの下から人(足)の往来を観察する場面を
前後の文から独立させて表現しています。
「鴉」の主人公 京子は、人の往来を同じ高さの視点から眺め、
「COO,COO」の主人公 上原サンは、ワゴンの下から人の往来の足だけを眺めています。
そして「ポケットの白鳥」の主人公 ヨーコは、ビルの屋上から、
雨が降るのに合わせるかのように視線を下に降ろしています。
「COO,COO」でもこの人の往来には大きな修正が加えられましたが、
みゆきさんとしては、この視点の高さが相互に対称的な人の往来の描写を、
より強調したかったのではないでしょうか?
「この空を飛べたら(バードランドサーカス)」の各主人公は
それぞれ、社会・他者に対して疎外感や孤独を感じています。
3人の主人公がそれぞれの場所から
人の往来に交わらずに、ただそれを眺めている場面は
彼女たちの孤独を象徴的に表しているように思います。
【後編 青い屋上。赤い屋上。】
みゆきさんの場合、小説においても、重要な場面では
一定の形式を持った詩に近い文章を用いるのは、
先に見てきたとおりですが、
「ポケットの白鳥」後編でもそうした表現手法は
用いられています。
84-2以下、主人公 ヨーコが自殺しようとする女(「かささぎ橋」の主人公 鷺沼素子)に
声をかけるまでの場面です。
「バードランドサーカス」では、冒頭に一度「青い屋上。赤い屋上。」と使われるだけですが、
「この空を飛べたら」では
青い屋上。
赤い屋上。
という2行に分けた形式で、計4回使用されています。
結果、「この空を飛べたら」では
イルミネーションが青から赤に切り替わるたびに事態が推移していくことになり、
緊迫度を格段に増すことに成功しています。
ここらへんのテクニックは作詞家中島みゆきさんの本領発揮といったところでしょうか?
【ノモトとシライシ】
この編の主人公の名前は「バードランドサーカス」では、「ノモト ヨーコ」
「この空を飛べたら」では「シライシ(白石?) ヨーコ」に変わっています。
変更の理由は定かではありませんが、あるいは題名「ポケットの白鳥」の
白鳥と関連付けたかったのかもしれません。
面白いことに、この「ノモト」という姓は、
後の「かささぎ橋」で主人公 鷺沼素子の恋人「野本さん」として復活します。
ということは、「ノモト → シライシ」への変更は、
「この空を飛べたら」刊行(1991年10月)の一年以上前、
「バードランドサーカス 第5話 かささぎ橋 前編」({03」1990年9月号掲載)以前の段階で
みゆきさんの中では、決定していたのかもしれません。
【時間の修正】
ほとんどオマケのような話ですが…
主人公の姉 日本料理屋に勤めているアユミの出勤時間に変更が加えられています。
「バードランドサーカス」では
7時起床→8時30分のバスに乗る→9時30分更衣室到着
それが、「この空を飛べたら」では
7時起床→9時30分のバスに乗る→10時30分更衣室到着
になっています。
これも理由は定かではありませんが、
実際の日本料理屋の仲居さんの勤務時間に合わせたのかもしれません。
この「バードランドサーカス」と「この空を飛べたら」の比較は
連載していく予定です。
そこで、今回私が掲載した相違点に基づいて別の観点からの考察がありましたら、
ぜひ、お聞かせください。
よろしければ、このページに
「私はこう考える」という形で、掲載してみたいと思っています。
(要 ペンネーム)
また、他にみゆきさんに関するデータや研究を発表してみたいが、
発表する場所が無いという方、
形式の整ったものでしたら(出典情報など)
私のホームページのスペースをお貸しします。
どうぞご相談くださいませ。

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